その2
夏美



「そうだよ、相川さん。…オレは早い段階で”そこんとこ”を確信し、まずは墨東と紅組との友好関係というフレームを築く行動に入った。"水面下"
から…」

「南部さん…!」

「…紅丸さんは快く賛同してくれたが、”私らのアクション”にはまだ早いという姿勢で徹底されてね。まあ、その間では色々だったわ。そして気が付けば、双方は真逆の敵味方になり、去年の対決に至った…。何ともだったよ…」

あの伝説と化した昨年の火の玉決戦…

南部さんの心中を察すると、胸が締め付けられる


...


「あの日、勝負は決した。そこで砂垣さんを排除して、俺と高本、積田のスリートップ体制に移行した。まずは大胆に方針転換を掲げ、紅組との関係は何とか最低限、軌道に乗せた。だが、本質的なところで、墨東は胴体と足が別に動いていてね」

「…」

「…今まさに、”そこ”を実感してるよ。だからこそ、これからは紅丸さんという核で更に幅を広げてもらわないと…。それは何もさ、オレら墨東や南玉だけに限ったことじゃなく、その辺の普通の若い男女、果ては都県境で地に足をつけてつつましく暮らしているすべての人達…。大げさかもしれないが、それの可能性をあの人なら体現してくれるかもってさ…。だから、オレは今後も紅組との共同歩調を軸足にしていく」

私の両目には既に涙が滲んでいたわ

「こんな素敵な凄いお話、私なんかにありがとうございました。私、感激しちゃって…。はは…」

「いや…、君だからこそ話したんだ。実際はここまで告げることは迷ったけど…」

「南部さん…」


...



「あのさあ、オレ、もうキミのこと好きになっちゃってるんだ」

その一言はいきなりだった

私の胸はその途端、大きくときめいた

「…但し、あらかじめ承知しててもらいたいんで、はっきり言う。キミが南玉連合の幹部だったと知らなかったら、会うの2度目で、この気持ちには至らなかったと思う。オレが惚れたのは、南玉連合で頑張ってる、踏ん張ってる君なんだ。今は…。それでよかったら、これからこのオレと付き合ってくれないか?」

「はい!私も墨東会を牽されている南部さんのこと、もう好きになってますから。”それ”で構いません。むしろ、私の立場をそこまで理解いただいてくれて、うれしいですよ、とても」

「…じゃあ、よろしくね。…ふう、柄にもなく青っぽい告白なんかしちゃったけど、最初にキッチリしときたくてね。それでだ…、そうとなると、二人のこれからの前提なんだけど…」

私にはだいたいのところ、南部さんがこれから話すことが想像できたわ

そこで、こっちから一言先にね…

「お互いの立場ですね…」

「はは、見越してたか…。なら、話は早いな」