はぁ。


体の奥の奥から出てくるため息。

ほんと、どこ行っちゃったんだろう、ノート。


「あら、優ちゃん、またため息なんかついて。ため息ってね、つくと、幸せが1つ逃げていくらしいよ。ほら、元気出して!」

「はい……」


ダメだ。

せっかく香中さんが親身になって心配してくれてるのに、わたしってば、気の利いた返事もできない。


ほんと、ダメなヤツ。

何にも出来ない。

どんくさい。

もう、自分が嫌すぎる。



「あ、バラバス!」


店内放送が切り替わって、
バラバスのヒカルとトモキがラジオ風に喋り出す。

今週から発売のコラボスイーツの宣伝かな。
と思っていたら。


『実はボクたち、来月の頭に、配信限定のミニアルバムの発売が決定したしましたっ!!』

『いよっ! いよーうっ! 待ってましたっ!!』

『なんだよ、その掛け声(笑)』

『盛り上げようとしてるんじゃん!』

バラバスの中でも明るいキャラクターの2人の掛け合いに、思わずふふっと笑ってしまう。

『わかってるけどさ…。で!でね!
 今日はその中から、超オススメ曲を、ちょっとだけご紹介します! それでは聞いて下さい、ボクたちバラバスで…、『truth』!!』


(あ、良い曲…)

切ない曲調だけど、
なんだかほっとするような温かみもあって。

片想いの歌。

歌の中の主人公は、学生かな。

憧れの人を、ただ見つめるしかできない…


  君の瞳に 映りたい
  1秒でも それ以下でも
  でもそんなの無理
  だって
  君は太陽みたいで
  ボクはただの雑草
  それでも 少しでも目をとめてほしくて
  小さな青い花を咲かせよう


えっ…。

アメリカンドッグを補充しようと
手に持っていたトングが、大きな音を立てて床に落ちる。

あ、落としちゃった。拾わなきゃ。


そう思うのに、身体が動かない。


「優ちゃん!?大丈夫!?」


香中さんが慌てて拾ってくれる。


それでも、お礼も言えない。



この曲…。

私の詩……。


なんで? どうして!?

どうして、私が書いた詩を、バラバスが歌っているの…?



ピロロリン。

気の抜けた音がすり

自動ドアが開いて、お客さんが入ってきた合図。


いらっしゃいませ、とにかくそう言おうとして、入ってきたお客さんのほうに目を向けて。

となりの香中さんが、息を呑む音が聞こえる。


入ってきたお客さんは、まっすぐレジに向かってきて、私の前に立って言った。



「ごめん、ちょっと、話があるんだけど」



もう、わけがわからない。

目の前に立ったお客さんは、

全身黒づくめで、キャップをかぶった格好で、

それでも光を放っている人……


早瀬レン、だった。