「想太先輩、呼びました。じゃ、俺、失礼しますね」

「お、ありがとね」

一度呼びに戻ってくれた和樹が教室を出ていき、教室の中、ドアの前に立っている女の子と目が合う。

「あ、えっと…こんにちは」

そう言うと、数秒遅れて返事が返ってきた。

「こ、こんにちは…」

とても、可愛い子だった。色素が薄くて儚い感じ。ビー玉みたいに静かで綺麗な瞳でこっちを恐る恐るというように見つめている。

「えっと…遠山、礼衣さん?」

「はい…」

「あ、えっと、俺は、2年の立花想太です」

「あ、中村くんに聞きました。優しい先輩だって」

和樹、良い奴すぎだろ!マジナイス!
そんな気持ちを抑えて、精一杯先輩っぽく余裕を出してみる。

「そっか…。あ、なんか、急にごめんね。ハンカチ拾ったから、届けたくて」

「ありがとうございます」

「いえいえ、はい、これ」

あの桜色のハンカチを手渡す。

「ありがとうございます…!お気に入りだったので、無くしたらどうしようって思ってて」

「そっか、良かった。可愛いね、そのハンカチ」

「ありがとうございます…すごく、大事なものなんです」

「そうなんだ…?」

そして、目の前の女の子は、意を決したように、ハンカチから目を逸らして、俺の目を見つめてきた。

「あの、想太くん、だよねー…?」