薄暗闇の中、リカはふと目を覚ました。
布団とは違う温かいぬくもりに、何だろうと眠っている思考を働かす。

腰の辺りに重さを感じて、ようやくそれが航太に抱きしめられていることに気づいた。

昨夜は激甘に抱き尽くされて、心地良い疲労感のまま眠りに落ちてしまった。
とろとろに甘くて心満たされるエッチは初めてで、まさか自分があんなにも乱れて啼かされるとは思わなかった。

思い出すと羞恥で顔が赤くなる。
それに、こうして裸で抱き合って寝てしまったのも初めてだ。

リカは反射的に身を縮め両手で顔を覆った。
――と、コツンと航太の胸板に額がぶつかる。

リカがもぞりと動いても起きる様子はない。
リカはそっと航太の胸板に耳を付けた。

トクントクンという規則的な鼓動が耳に響く。
リカの大好きな、航太の心臓の音。
微睡みながらリカは呟く。

「……航太先輩、ありがと」

リカの過去をまるごと上書きされたような、そんな感覚。嫌な思い出も心の傷も、何もかも航太の優しさで綺麗に包まれてどこかもう遠くの隅の方に追いやられてしまった。忘れることはないけれど、今後思い出す必要もまったくない。もしかしたら思い出すことすらないのかもしれない。

ぐっと抱きしめる力が強くなった。

「……先輩起きちゃった?」

「……んー、寝てるよぉ」

なんとも気の抜けた声に、リカはくすりと笑う。
そのうちに航太の手がさわりさわりとリカの体のラインをなぞり始めた。

「ちょ、せんぱいっ」

「夢じゃないことを確かめてるだけ。あー、リカちゃん可愛い。好き。たまらん」

「……寝惚けてる?」

「うん、半分寝てる。でも好きなのは本当。大好き。一生離したくない」

「……一生離さないでね」

「離さないよ。離れようとしても追いかける」

「うん」

リカが航太の背中に手を回せば、航太はリカの腰を引き寄せるかのように優しく抱きしめる。

「リカちゃん、愛してるよ」

耳元で囁かれる声にリカは一層体を震わせる。

「私も――」

顔を上げたリカに、たくさんのキスが降り注ぐ。
まるで祝福の雨のように、航太の刻印がリカの体に刻まれた。



【END】