「はぁー」

自然と漏れてしまったため息に、リカは慌てて口元を押さえた。
仕事が落ちつくと途端に頭の中が航太のことでいっぱいになる。
航太との関係をどうにかしたいのに、ズルズルと月日だけが経ってしまっているのだ。

あの日以来、航太との接し方がわからなくなっている。
いつもどんな口調で話をしていただろうか。
いつもどんな話題で盛り上がっていただろうか。

考えれば考えるほど深みにはまっていってぎこちなくなってしまう。
決してそんな風になることを望んでいないのに。

グジグジ悩んでも仕方がない。
そんなのは自分らしくない。
よし、とリカは気合いを入れる。

事務室に入ってきた航太は給湯器の前でコップ片手に何やらブツブツ呟いているリカに声をかけた。

「リカちゃん、コーヒー飲むなら俺にもいれて」

「自分でやってくださいよ」

咄嗟にいつもと同じ様な返事ができて安堵する。
そうそう、これだ。航太とはこんな感じでズバッとものを言い合っていた。いつも通りの自分にリカはほうっと胸をなで下ろす。が――。

「リカちゃん、相変わらず冷たい。ぐすん」

航太とていつも通りの返しだったように思う。
それなのになぜだかリカの胸はズキンと痛んだ。

航太に冷たくしたいわけじゃない。
もっと優しくできたらいいのに。
そう思うのに捻くれたものの言い様しかできない自分が情けなくて気持ちが沈む。

「……私、そんなに冷たいですか?」

「え?」

言って、リカははっと口を覆う。
責めるべきは航太ではないのに、どうしてか八つ当たりしてしまう。
それがさらにリカの心を苦しめた。

「ごめんなさい、なんでもないです」

ぷいっと横を向いたリカに航太はすぐに駆け寄り顔を覗き込む。
まるで壁ドンされたかのように追い込まれてリカはマグカップを両手で握りしめてビクリと肩を揺らした。

「ごめん、傷つけた? そういう意味じゃなかったんだけど、リカちゃんが傷ついたなら謝るよ。ごめん」

囲い込まれて逃げ場を失った状態のリカは、航太の真剣な顔にごくっと言葉を飲み込む。
謝ってほしいわけじゃないけれど、そうやってリカのことを慮る航太の言動はより一層にリカの心を揺るがす。