もしもアラームが鳴らなかったら。
もしもあの日仕事が休みだったら。

過去を悔やんだって仕方がないのに、どうしても思ってしまう。あの時ああすればよかった、こうすればよかったと。そしたら今別の未来があったはずなのに。

「でも急にどうした? 今まではそんな積極的にいかなかったのに。俺が二人仲良いなって言っても否定してたくせに」

「俺だって照れるんだよ、そういうこと言われるとさぁ」

「中学生か」

「心はいつだって少年なんだよ。杏介だってそうだろ?」

「え? あー、うん、間違いない。男はいつまでも少年のまま」

「だろ?」

お互い顔を見合わせてぷはっと吹き出す。
ここに一人でも女性がいようものなら非難轟々の嵐だったに違いないが、気の置けない二人だからこそありのままの気持ちをさらけ出せる。

「告白だって別にするつもりなかったんだ。俺は今のままでも楽しかったし、先輩って呼んでくれなくなったら悲しいし。でもさ、ちょっといろいろあってさ、勢いで告白しちゃったんだよ」

「ちょっといろいろの部分が気になるけど」

「……そこはリカちゃんの沽券に関わるから言わない。でさ、いざ告白するとさ、なんか欲張りにならねえ? 今までは一緒に働けたらそれでいいやって思ってたのに、急に自分のものにしたくなる」

「わかる。独占欲っていうのかな? もっとその子のことを知りたいし俺だけに笑いかけてほしい」

「それそれ! それだよ! なんで街コンなんかに行くんだよー。俺じゃダメなのか……」

「フラれたのか?」

「わかんねぇ。先輩のバカって逃げられた」

「……よくわからん」

「俺もよくわからん」

しん、となったところで店員が追加の肉を運んでくる。航太は皿を滑らすように一気に肉を網の上に落としてトングで広げた。

「で、諦めるのか?」

「うん? まさか? 今日は、諦めきれない女々しい俺を励ます会だろ?」

「女々しい俺たちを励まし合う会、な」

「間違いない。んじゃあさ、お互い彼女の好きなとこ挙げていこうぜ」

「いいのか、航太」

「なにが?」

「俺、負ける気しないけど?」

「なんだと杏介。俺に勝てると思ってるのか?」

「俺の愛は空よりも高く海よりも深い」

「ぶはっ! ダセぇ! 俺は宇宙一リカちゃんを愛してる」

「あはは! 宇宙一とか、クソダサ」

「うるせー! リカちゃんはほんと可愛くてだなあ――」

二人は張り合いながら自分の好きな人を思い浮かべ幸せな気持ちに浸った。

リカの好きなところはたくさんある。
可愛いだけじゃない。仕事に真面目なところも少し意地っ張りなところもときどき調子に乗るところも、そのどれもが航太にとっては愛おしい。基本敬語でしゃべるくせに、たまに無意識にタメ口になってしまっているところも微笑ましくて可愛くてたまらないのだ。

潔く諦めることなどできそうにない。
ハッキリとフラれたわけじゃないのだから少しくらい可能性があるのではないか、と思うのだが。

今日の街コンでいい人が見つかったらどうしよう、見つからなければいいのにと願わずにはいられなかった。