「……俺、リカちゃんに変なことしないって約束したけど?」

「でも私が望んだらしてくれるんでしょ?」

「そうだけど……リカちゃん酔っ払ってるだろ?」

「酔っ払ってなんかないもん」

リカは勢いよく航太を押し倒す。
指が絡まったままだったため航太はバランス悪く床に倒れ、そのままリカも上に降ってきた。

――ゴチッ

「っ――!」

後頭部をチェストにぶつけると共に、降ってきたリカの頭も航太の額にゴチンとぶつかる。
転がり叫びたい衝動に駆られながらもリカをのぞき込めば、すやすやと寝息を立てているではないか。

「リカちゃん――」

航太はリカを抱えながらもへにゃっと力が抜けた。
深く息を吐き出せば、自分の心臓がドックンドックンとけたたましい音を立てているのに気づく。

酔っていたとはいえ迫ってきたリカは色っぽくて気を抜いたら理性が吹き飛んでしまうのではないかと思った。

「くそっ、なんか試されてるみたいだな」

航太はひとりごちる。
大好きなリカにこんなトラウマを植え付けたあの男に再び怒りがわき上がる。

――俺はリカの初めてをいただいちゃった男でーす

よくもあんな簡単に言えるものだ。
過去なんてどうでもいいとリカに告げた航太だったが、どうでもよくない。いいはずがない。

どうしてそんな心ない言葉が言えるのだろう。
目の前のリカはこんなにも健気で可愛いのに。
どうして大切にできないのだろう。

と考えたところで思考を切り替える。
あの男がリカを大切にしなかったから、今、航太の目の前にリカがいるのだ。
航太がリカを幸せで包んでやればいい。
過去なんて思い出せないほど甘やかして大切にしてやればいい。

「少しずつだよ。少しずつ。何でも最初から上手くいくわけないだろ。泳ぐのだって、まずは顔付けからじゃんか」

航太はリカを抱えて背中をそっと撫でた。