先輩が愛してくれた本当のわたし


航太は柔らかい視線でリカを見る。
それはリカを非難するわけでも蔑むわけでもない、優しくてあたたかい眼差し。

「俺はさ、過去なんてどうでもいいんだよね。今、目の前にいるリカちゃんが俺に笑いかけてくれる。それだけで幸せだなって思うんだよ。それに、過去に戻ったらリカちゃんと会えなかったかもしれないし、だから、これでよかったんだと思うよ」

リカは目を見開く。
そんなことを言われたら、リカの過去がすべて良かったことになるような気がして心が熱くなる。
胸がぎゅっと締めつけられてどうしようもなくなる。

「……先輩、ずるいです。いつもはそんなこと……言わないくせに。なんか……調子狂う……チャラくいてくれないと……」

「難しいこと言うなよ」

航太は照れくさそうに頭を掻く。

「ウェーイとか言ったらいい?」

「……バカなんですか?」

「あっ、ひでぇ。リカちゃんがチャラくしろって言ったじゃんか」

「そういうことじゃなくて」

といいつつ、リカも航太にどうしてほしいのかわからない。
自分の気持ちもはっきりしない。
それなのに、妙に頭はすっきりしている気がする。

「……なんか酔い覚めちゃいましたね。飲み直します?」

「いいねぇ二次会」

「次は私が払います」

「真面目か」

航太は可笑しそうに笑う。
そして、淀みのない笑顔で提案する。

「じゃあさ、コンビニで買って宅飲みしない?俺んちで。どっか店行くとまたあいつに会いそうじゃん」

「……いいですけど、変なことしないでくださいね」

「しない、しない。嫌なこと忘れて楽しく飲み直そうぜ」

明日はリカも航太も遅番の予定だ。
少しくらい深酒をしたって問題ないだろう。
それにリカは酒に強く泥酔したことも羽目を外したこともない。