オスカルに絆はニコリと笑って言い、差し出された手を無視して歩いて行く。オスカルは気にする様子もなく、絆の隣に立って再び歩き始めた。

ロビーを抜け、エレベーターに乗り込む。エレベーター内は二人きりで、絆はオスカルの横顔をチラリと時々見上げた。エレベーターに入った瞬間から、彼の目はどこか変わった。いつもより真剣なものになっている。

チン、と音を立ててエレベーターが止まった。最上階だ。オスカルが先に降りる。

「こっちだよ」

長い廊下を歩き、ある一室の前でオスカルは立ち止まった。ここが彼の泊まっている部屋のようだ。

「最上階ってことは、スイートルームですか?」

部屋の鍵を開けるオスカルに絆が緊張を覚えながら訊ねると、オスカルは「まあね」と返す。その笑みは、どこかいらずらを計画するいたずらっ子のようだった。

「今回、俺たちがイギリスに来たのは絆のスカウトだったからね。つまりは出張。出張にかかる費用は全部本部が負担してくれるから、スイートに泊まっても問題ないんだ」