「ハルちゃん、なんだか今日は大人しいわね。アキがしゃべりすぎるもんだから圧倒されてんじゃないの?」

アキはコーヒー片手に、「そんなにしゃべってますかぁ?」なんて、荻原さんに無邪気に笑いかけた。

そうよ。

この会議室に通されてから、ずっと調子よくしゃべりすぎ。

普段ならもっとぴりっとした緊張感が、作家さんにもイラストレーターさんにもあるはずなのに、今日はなんだか調子狂うわ。

これから大事な打ち合わせだっていうのに、緊張感もあったもんじゃない。

アキの止まらないおしゃべりにすっかり疲れちゃった。

「それにしても、ハルとアキだなんて、思いっきりコンビ名みたい。この組み合わせもなかなかいけてるわよ。」

アキは何も言わず笑った。

「ほんとですね。ハルとアキときたら、次二人で組むことがあったらナツとフユを主人公にさせた作品描こうかな?」

我ながらしょうもない返しだなと思いつつ荻原さんの話に便乗してみた。

「あはは、いいわねぇ。ね、アキもそう思わない?」

荻原さんも明らかなお世辞笑いをしながらアキにふった。

ちらっとアキの方を見ると、苦笑いしながらコーヒーを飲んでいた。

こういうときこそ気の利いたことしゃべれっての!

なんだか少し恥ずかしくなって、私もコーヒーを一口含んだ。


「はい、これが今回の原稿。」

荻原さんはアキに私の原稿のコピーを差し出した。

アキはコーヒーを置いて、両手で原稿を受け取り、静かにページをめくった。

こんな真剣なアキの顔、初めて見る。

何も言わず、私の原稿の文字を黙々と追っているアキの目を見て不覚にもドキッとした。

私自身を夢中で見つめられているような、そんな錯覚に陥ってしまう。

アキは、この作品を読んで、どう感じるんだろう?

またいつもの打ち合わせと違った緊張と不安が私を襲った。