「元カノさんはもう退院したの?」

「ああ、先日したよ。ハルに言われた通り、退院前にきちんと話した。」

「そう。」

「元カノの奴、驚いてたよ。俺がそんなこと言うなんてさ。逆に退いたって。」

アキはおかしそうに笑う。

「元カノさんには何て言ったの?」

「え?うん、まぁ。なんか恥ずかしいけど。『きちんと向き合える女性と出会ってしまった。申し訳ないけど、もう君とはお付き合いできない。ごめん。』ってさ。至ってシンプルでしょ?」

涙が出そう。

「元カノの奴、俺のちょっとつかみ所のないちゃらんぽらんなところが好きだったのに、変わった・・・だってさ。あまりに、今までと違うから、逆に元カノも吹っ切りやすくなったみたいで。万事良好だろ?俺もこんなに穏便にすすむとは思いもしなかったから拍子抜けちゃったよ。」

「そうなんだ。よかったじゃない。」

全てがうまく走り出してるよ、アキ。

気がつくと、目の前が明るく開けてきていた。

もう駅についたんだ。

駅前にはタクシーが何台も停まっていた。

「ハル、今日はタクシーで帰れよ。タクシー代くらい俺がもつし。」

一台のタクシーの前で、アキは私からゆっくりと腕をほどいた。

静かにタクシーの椅子に座る。

アキの方を見ると、光を背にして顔がよく見えなかった。

「ハル、今日は来てくれてありがとな。直太兄と、幸せにやっていくんだぞ。お前に出会えたこと、本当によかった。じゃ。」

アキは一方的にそう言うと、タクシーの扉を勢いよく閉めた。

アキ?

それは、さよならってことなの?

タクシーに揺られながら、私の胸の奥に少しずつ悲しみの色が覆っていった。

寂しいよ。

そして、いつの間にか頬に涙がつたっていた。