日の当たらない、小さな部屋。




私が座る椅子と、

テーブルを挟んでもう一つ。




君の座っていた椅子がある。




誰にも知られず、見つけられず。




君のいた場所が、

確かに私の世界にあった。




君の声、言葉、仕草。




目に映った君の姿全てが

宝物であったはずなのに。




いつしか、その宝物も

輝きを無くし、

ただの重い荷物でしかなくなった。




あの時感じていたときめきも、

小さな幸福も。




この閉じた世界を残酷に晒し出す

光に変わり果ててしまった。




一体いつから、

君との"さようなら"が始まっていたのだろう。





君がここを捨て去り、

立ち去った日か。




それとも、

君がそうしたのと同じに、

私が宝物を全て捨て去った日か。




あるいは、君と出会ったその瞬間から、

定められていたことなのか。





報いの無い終わり。

寂しい終わり。




どんな言葉で答えを付けてみても、

結末は何も変わらない。




これからは、全てを

簡単な言葉で括ってしまうようになるのか。




あの大人たちが言っていたように。




何が起きても、

これが人生、これが生きることだと。




どんなに心が引き裂かれて、

抉られるような出来事が起きても。




その言葉だけで流すようになってしまうのか。

そうでもしないと、辛くなるのか。




繰り返す、終わりのない問い。




君を失ったこの世界で、

心の穴を埋めるように、

繰り返している。




少しずつ薄れていく、君の記憶。




やがて、ここが

"君のいない世界"であることさえ、

忘れていくのだろう。




だけど、1日くらいはあっていい。




渡り鳥がふと島へ立ち寄るように。




君のいた場所を、

ふと思い出す日があったって。




君はもう帰ってこないけど。

君のいた場所は、無くならない。




遠く遠く忘れ去っても、

そこに在り続ける。




例え、空っぽでも。

主などいなくても。




ずっと、ずっとそこに。




日の当たらない、小さな部屋。




私が座る椅子と、

テーブルを挟んでもう一つ。




君の座っていた椅子がある。




誰にも知られず、見つけられず。




君のいた場所が、

確かに私の世界にあった。




座っていた主が、

もう二度と戻ってこないことを、

知っているかのように。




全てを諦めて受け入れているように、

空白の席がある。





そこが、君のいた場所。






私だけが知っている、

君のいた場所だった。