特に小さい頃は乃愛ママが出張の時とかにうちで乃愛を預かることもよくあったし、ふたりで春斗にくっついてばかりいたから、春斗にとっても乃愛は妹みたいなものだと思う。
「彼氏」とだけ答えると「可哀想に」といらない情けをかけられて、嘲笑うようにふんと鼻を鳴らして部屋から出ていった。世界一ムカつく置き土産だ。
ゲームを再開しようとコントローラーを持つ。
しばらくして今度はコンコンとノックが聞こえた。さっきノックしろって言ったからか、と思いながら返事をすると、開いたドアから顔を覗かせたのは春斗じゃなかった。
「入っていい?」
春斗と同じ制服を着た彼は見たことがない。
背が高くてちょっと肌が焼けている。綺麗にセットされた、柔らかそうな明るめの茶髪。斜めに分けられた髪を左側だけ耳にかけていて、ピアスがふたつ光って見えた。
普段は同学年の男の子か春斗くらいしか見ないから、〝男の人〟っていう雰囲気に少し緊張した。
「え……どうしたんですか?」
「呼んだのに来ないから来た。春斗が行っていいって。あ、ノックしろとは言われたけど」
「はっ⁉」
意味わかんない。そして注意すべきはノックじゃない。
なんで勝手に許可してんのよ、春斗。
コントローラーを持ったまま、まさに今ボスに魔法をかけられて石化しているゲームの主人公さながらに石化する。
「え? ダメ?」
「……だ、ダメです! 部屋に男の人が入るとかちょっと!」
別に深い意味はないし、この人がそういう目的で来たわけじゃないなんてわかっているのだけど、とっさに出た台詞がそれだった。
なのにその人は言葉をそのまま受け取って、大きな口で大笑いした。