「椎名が大好きで、椎名一筋で、他の男なんて眼中にありません! って。電話とかメッセージとか健気に待ってたり、ちょっと話しただけで嬉しそうにしてたり。あたしは今の彼氏と、もうそういうのとっくになかったから」

そうだったんだ。全然気づかなかった。

もしかしたら乃愛もずっと悩んでたのかな。あたしが椎名の話ばかりしていたから、避けられてからはずっと落ち込んでいたから、言えなかったのかな。

バスをおりると、家まで徒歩五分。乃愛はあたしの手をぎゅっと握った。

「ねえ、チナは運命の人っていると思う?」

乃愛はどこか照れくさそうに、けれど弾む心をおさえきれないように、静かに降る雪を見上げながら言った。

「運命の人?」

そんなの考えたことがない。なんとなく想像はできるけど。

奇跡みたいな出会い方をして、出会った瞬間お互い恋に落ちて、ずっとずっと、なにがあってもずっと、お互いを想い合える関係。お互いが「この人しかいない」と信じられる関係。

そんな漠然としたイメージだけれど。

「んー……わかんないや」

イメージはできるものの、いるかいないかはわからない。もしいるのだとしても、自分がそういう人と出会える気がしない。

「あたしはいると思うんだ。だから、その人を探しながら、出会えるまではいろんな経験積もうかなって」

乃愛がそんなことを考えていたなんて知らなかった。

椎名のことしか頭にないあたしは、この先自分がどうなるかなんて、運命の人と出会えるかなんて、そんなこと想像もできなかった。