軽くメイクをして家を出る。少し前から積もり始めた雪は、すっかり町を真っ白に染めていた。
もう自転車には乗れないから、バスでいつもの駅前のカラオケに向かう……のかと思いきや、いつもとは違う路線のバスに乗った。
あたしの家付近も駅近とはいえ決して都会ではないのだけど、バスはもっと田舎のほうに走っていく。
いくつかのバス停を通り過ぎた頃、乃愛が停車ボタンを押した。おりてすぐのところあったカラオケ店に入っていく。
フロントで乃愛が知らない人の名字を口にして、店員さんに告げられた部屋番号が書いてあるドアを開けると、
「あ、乃愛ちゃーん! 久しぶり!」
見たことのない男の子がふたり座っていた。
……そう、男の子が。
乃愛ちゃん、と手を振っている彼は、『黒髪短髪=爽やか』という世間一般のイメージを全否定するかのように、首元や手首にシルバーのアクセサリーを光らせている。切れ長一重の目と細めの眉もヤンキー感を増幅させていた。
他校の友達って、まさか男の子だったとは。なんの疑いもなく当然女の子だと思っていた。男の子だと知っていたら間違いなく断ったのに。
あれ。だからあえて言わなかったのか。乃愛め。
どういうことだと今すぐ問いただしたいけれど、この距離じゃいくら耳もとで小声で言ってもふたりに聞こえてしまう。
小心者のあたしには知らない人の目の前で怒る度胸はなく、ただただマネキンみたいに微動だにせず立ち尽くすことしかできなかった。