なにも話せずに、ただただ帰り道を並んで歩いた。少し、離れながら。
無言で歩き続けるのが辛い。前を歩いている椎名が一度も後ろを振り向かないのが悲しい。
「……椎名」
やっと言葉を発することができたのは、あたしの家まで――彼女でいられるタイムリミットまで――残り五分くらいの頃だった。
話したいと言ったのはあたしなのに、なにも話さないまま終わるなんて最悪だ。
だけどやっぱり怖い。あたしはまだ、椎名が好き。
「なに?」
返ってきたのは、聞いたことのない低い声。
立ち止まって振り向いた椎名の目は、教室を出た時から変わっていない。
呼んだのになんて言えばいいかわからないあたしは、また黙りこくる。
結局、切り出したのは椎名だった。
「なんで隠してたの?」
椎名の鋭い目線と低い声が鉛と化して、どんっとあたしの胸にぶつかった。
「……ごめんなさい」
「なんでって訊いてんだけど」
椎名が怒ってるところなんて見たことがなかった。いつも無表情だけど、みんなで遊んでる時は楽しそうに笑っていて、本当は優しい。
そんな椎名を怒らせてしまったことに、もう後戻りできないことに、弱虫なあたしは結局涙を堪えきれなかった。
「……椎名に、嫌われたくなかった」
「友哉と付き合ってたからって嫌ったりしないけど。みんなで俺に隠してたことのほうがショックだよ。なんで早百合に聞かされなきゃなんねえの? チナか友哉から聞きたかった。それにチナも俺が初彼氏だって勘違いして、ひとりで浮かれて、すげえバカみたいじゃん」
こんな状況でも、椎名の口から出た「早百合」にショックを受けた。椎名が名前で呼ぶ女の子はあたしだけだったのに。