椎名は「やっぱ泣いてんじゃん」って、少し笑った。

……優しい顔で、笑った。

「最近チナあんまり話しかけてこなくなったから、友哉に訊いたんだよね」

「そんなのあたしに直接訊けばいいじゃんっ」

「いや、友哉にも同じこと言われたんだけど、チナ怒ってると思ってたし」

どうも椎名の中であたしは相変わらず怒りっぽいイメージらしい。まあ間違ってはいないかもしれないけど。

怒ったり泣いたり、椎名の前ではそればっかりだ。

「そしたら『お前がチナの気持ち考えないで他の女とばっかしゃべってるからじゃね?』って言われて」

友哉もバカだ。……ほんと、みんないい奴。

「それってヤキモチ? で合ってる?」

大正解なのに、むしろそれしかないのに、それでも疑問系で訊いてくる椎名に、椎名はやっぱり椎名だって安心した。

泣いて多少はすっきりしたのか、あたしも少し素直になれた。

「……他の女の子と仲良くしゃべってるの、すごい嫌だった」

どうしても口にできなかったことを言えた。

面倒くさいって思われたくないとか、うざいって思われたくないとか束縛女だと思われたくないとか、いろいろ考えていたけど、相手は椎名だし――

「かわいーな」

椎名、のはずなんだけど。

「……ど、どうしたの?」

「なにが?」

「い、今、可愛いって言った?」

「言ったけど。思ったから言っただけだよ」

無表情のまましれっと言った椎名は、また少し笑った。

椎名の冷たい手があたしの頬に触れたのを合図に、ゆっくりと目を閉じた。

放課後の薄暗い裏庭で、あたしたちは二回目のキスをした。