とはいえ今回ばかりはタイミングが悪い。
あの時は気づかれずに済んだけれど、今もし椎名に来られてしまったらごまかしようがない。それに泣いている原因は椎名のことだから、あたしはたぶんうまくごまかせない。
出ようか悩んでいると電話が切れて、またすぐに二回目の着信がきた。
「……もしもし」
観念したあたしは、震える声を隠そうともせず、まだ思考がぐちゃぐちゃの状態で電話に出た。
『今どこ?』
「……裏庭」
『行くわ』
一方的に切れた電話。数分後、すぐに近づいてきた足音。顔を上げると、こっちに向かって走ってくる椎名の姿。
「チナ」
どうして。
来てほしい時には来てくれないのに、来てほしくない時には来てくれちゃうんだろう。ヤキモチ妬いて泣いてるところなんて、見られたくなかったのに。
「なんで泣いてんの?」
あたしの正面にしゃがんで顔を覗きこむ。もう手遅れなのに、泣き顔を見られたくないあたしは、また膝に顔をうずめた。
「……なんで来たの」
あたし、本当に可愛くない。あんなに話しかけてほしかったのに。
来てほしくなかったなんて意地を張っていたって、電話をくれたことも走って来てくれたことも、本当は嬉しいのに。
「高橋が『女泣かせてんじゃねーよ』って。すげえブチギレてて殴られそうな勢いだった」
乃愛のバカ。ほんと、いい奴。
「なんで泣いてんの?」
断固として顔を隠し続けるあたしの肩を、指で控えめにちょんってつつく。
「……泣いてない」
「いや、泣いてんじゃん」
「泣いてない」
「ヤキモチ?」
不覚だった。驚いたあたしはとっさに顔を上げてしまった。