たぶん、椎名のことが好きなのだと思う。
「チナ、行かないの?」
乃愛があたしの制服の袖をつまんで、目線で「行け」と合図をする。
「乃愛、ちょっと……ごめん」
耐えきれなくなったあたしは、体育館をあとにして裏庭へと走った。
これ以上見ていたら泣いてしまいそうで、呼び止める乃愛の声にも振り返らずに、走った。
木に囲まれた薄暗い裏庭の真ん中にしゃがみこんで、弱虫なあたしは結局泣いた。
あたしがショックなのは――最初は戸惑っていた椎名が、最近は女の子と話すのに慣れたのか、少し笑うようになったこと。
戸惑いながら「女は苦手」って言う椎名に安心していたのに、それがなくなってきた今、あたしにはまったく余裕がなかった。
楽しそうに笑う早百合ちゃんが椎名に触れるのを、黙って見ていることしかできなかった。
だから練習なんて見に来たくなかったのにって、そんなことを考えてしまう卑屈な自分が嫌だ。
相変わらず連絡はほとんど取っていない。ふたりきりになったのも夏祭りの夜きりだ。あの幸せな時間は夢だったんじゃないかとか、そんな被害妄想まで始める始末。
それくらいあたしは、『彼女』としての自信も椎名に好かれている自信もなかった。
しばらくひとりで泣いていると、スマホが鳴った。乃愛が心配してくれたのだと思ってポケットからスマホを出すと、
【椎名】
滅多にこない、ずっと待っていた椎名からの着信。
いつかもあたしが泣いている時に電話をくれて、それがきっかけでどんどん好きになった。