ちょっと――反応に困る。
「彼氏いると思ってたし、したことあると思ってた。でもいなかったんだもんな。もしかして付き合ったのも初めてだったりする? だとしたらちょっと嬉しいかも」
初めて椎名が饒舌になってくれたのに、素直に喜べるはずがなかった。
心臓が、どくんどくんと嫌な音を立てる。
そうだよね。「好きになったの初めて」なんて言ったら、普通はそうなるよね。全部全部、好きな人とするのが当たり前だ。
正直に言うべき――だろうか。いや、言うべきに決まっている。
すごく悩んだ。一瞬だけど、ものすごく悩んだ。頭の中でいろんな言葉がぐるぐる回った。
だけど椎名が「嬉しい」って言ってくれたことが嬉しくて――好きでもない人と付き合って、やることやった軽い子だと思われたくなくて。
「……うん」
弱虫なあたしは、真実や謝罪の言葉を避けて、わざと嘘を選んでしまった。
ていうか、椎名って――あたしと友哉が付き合ってたこと知らないの?
「あのさ、チナ」
「ん?」
「キスしていい?」
椎名は椎名で、なんていうか〝男の子〟っていう括りではなくて、椎名でしかなくて。
いや、男の子なのは当たり前なのだけど、あたしの中で椎名はちょっと不思議な子だから、椎名もそういうことに興味がある普通の男の子なんだ、なんて、そんな変なことを思った。
「……うん」
目が合う。椎名の手が肩に触れたのを合図に、あたしは今にも破裂しそうなほど激しく波打っている心臓を手でおさえながら、ゆっくりと目を閉じた。
ほんの数秒。ううん、一秒にも満たないかもしれない。
ほんの一瞬、あたしと椎名の唇が触れた。
たぶんこの瞬間が、幸せの絶頂だった。
あたしの、淡い初恋。