「ねえ、椎名」

「なに?」

「その……あのね、」

「うん」

もう爽やかな笑顔を添えてなんて欲は言わないから、椎名から「付き合おう」って言ってほしい。

でも椎名はあまり自分から積極的にしゃべらないから、あたしから言うしかないのだと思う。

「あたしは今日から椎名の彼女ってことでいい?」

付き合ってください、とか言えばいいのに、椎名の前ではなぜかいらない意地を張ってしまう。

とことん可愛くない言い方だ。乃愛に報告したらきっと怒られる。

「え? チナはいいの?」

なんでそういうとこだけ訊き返すかな。今こそ「うん」でいいところなのに、やっぱり椎名は読めない。

「じゃああたしは彼女ね。椎名は彼氏」

「うん」

「連絡してね。あたしもするから」

「していいの? するタイミングがわかんねえ」

だからここは「うん」でいいんだってば。

本当にまったく思い通りに動いてくれない。

「いつでもいいの! あたしたち、……つ、付き合うんだから!」

「わかった。そうする」

「絵文字使えないけどいい?」って、また少し笑った。あたしも「いいよ」って笑った。

無表情で無口でなにを考えているのか、もはや本当にあたしのことを好きでいてくれているのかさえまったくわからないけれど――。

本日をもってあたしたちは、やっと、ちゃんと、間違いなく、〝彼氏と彼女〟になれたのだった。