「最初からいないよ。そもそも彼氏いるなんて言ってないじゃん」

そうだ。否定はしなかったけれど、肯定もしていない。「なんで?」と返しただけだ。椎名が勝手に勘違いしただけ。

「いないならいないって言えよ」

「言うタイミングないじゃんっ」

「そうなの?」

ていうか改めて訂正したら、自惚れてるかあたしが椎名を好きかどっちかじゃん。

そう思われるのが嫌だから言わなかったんだけど――相手は椎名だ。あたしと違って、報告してもきっと深読みせずに「そっか」で終わったと思う。

変に意識して変に意地を張っていたのはあたしだ。

「なんでお前って呼ぶの?」

「別に理由はないけど。嫌ならやめる」

「嫌じゃないけど……」

「どっちだよ」

「……チナ」

恥ずかしいにも程がある。

あたし告白されたんだよね?

告白……ではないかもしれないけど、椎名はあたしのこと好きなんだよね?

こんなの自分から告白してるみたいだ。

「チナって呼んで」

椎名はあまり動じない。うろたえているところなんて見たことがない。

だから、涼しい顔で鮮やかにスルーできてしまう器用な表情筋や(いや、逆に固まっているのかもしれない)、図星を突かれても平静を保っていられる強靭なハートを持ち合わせているのだと思っていた。

けれどそれは根本的に意地っ張りなあたしの思考で勝手に想像していただけの大いなる勘違いで、ただただ素直なだけなのかもしれない。

「わかった。チナな」

これがあたしの初恋。

あたしが初めて好きになったのは、少し変わった男の子。