「あ、うん、ちゃんと資格取れたし卒業できたよ。春からは幼稚園の先生。……あたしの夢、覚えててくれたんだ」
「そりゃあな。……そっか。よかった。夢叶えたんだな」
誕生日を覚えてくれていた。好きな飲み物を覚えてくれていた。将来の夢を覚えてくれていた。
昔は当たり前に交わしていたはずの、なんてことない他愛のない会話なのに、たったそれだけのことが、どうしようもなく嬉しい。
目線を上げて、込み上げてくる涙をぐっと堪える。今泣いててしまったら、この勇気と決意まで涙と一緒に流れてしまう気がした。
あたしが会いに行くと言った時、悠聖はどんな気持ちで頷いてくれたんだろう。どんな気持ちで、今日会ってくれているんだろう。
会えばわかるんじゃないかと思っていたけれど、全然わからなかった。
いや、優しく微笑んでいる悠聖を見ると、どうしても自分にとって都合のいいようにばかり考えてしまう。
そうか。あたしはあたしのことを好きでいてくれた悠聖しか知らないんだ。
だからずっと怖かったんだ。あたしのことを好きじゃなくなった悠聖を見るのが、怖くて仕方なかったんだ。
「……悠聖、あのね」
「ん?」
「……話したいことが、あるの。あたしの話、聞いてくれる?」
「聞くよ、いくらでも。そのために来たんだから」
なにを話そうか、ずっと考えていた。なにから切り出せばいいのか、ずっとずっと考えていた。
話したいことが、聞きたいことがたくさんたくさんあったから。
考えているうちに、悠聖と過ごした二年間が走馬灯のように浮かび上がり、それらがルーレットみたいに脳裏を駆け巡っていく。