黙ったままひと通り話を聞いてくれた乃愛が、あまり驚いた素振りを見せずに言った。
「あたしは本気で恋してる時のチナ知ってるから、なんか違うなあって。陸くんに対しては、ちょっとクールっていうか。陸くんとの付き合いがそういう感じなのかなあって最初は思ってたけど、途中から違うのかもって思って」
あたしもそう思っていた。あの頃みたいな気持ちになれないのは、〝好き〟の大きさじゃなくて、単に陸との付き合い方がそうなだけだと。
なんなら、これが大人の恋愛なのかな、なんてアホなことさえ考えていた。
「昔のチナ、全力で恋してたじゃん? 大好きでめっちゃ一途で、一生懸命でさ。付き合い方がどうとか関係なくて、あれがチナの〝好き〟なんだろうなっていうか。でも必死に前に進もうとしてるのに、水差すのもよくないかなと思って言わなかった」
「……そうだったんだ」
もしかしたらあたしは、自分でも薄々気づいていたのかもしれない。自分の本心を、決して見えないよう高い高い棚に上げていただけなのかもしれない。
財布やネクタイのことを陸に指摘された時、それが棚からぽろっと落ちてきて、だからこそなにも言い返せなくなった。
一度見えてしまったら、もうどこにも隠せなくなってしまった。
確かに陸は浮気をしていた。
だけど、あたしだって。
心の中には、いつだって陸以外の人がいた。
陸は体の浮気をしていたかもしれない。だったらあたしはきっと、心の浮気をしていたのだと気づいた。
きっと、どっちも同じくらい、最低だった。
「あのね、実はあたし、今日はちょっと、みんなに決意表明したくて」
「決意表明?」
宗司くんに怒られた日から、ずっと考えていた。
考えて考えて考えて、頭が爆発しそうなくらい考えた。
どれだけ考えても、何度考え直してみても、行き着く答えはひとつだけ。そう気づくのに時間はかからなかった。
「笑われちゃうかもしれないけど……あたしね、今でも、悠聖が好きなの」