「チナちゃん」

「なに?」

腕を振り解いてできる限り離れて警戒心を剥き出しにした。

なんだか宗司くんといるとこんなことばっかりだ。どれだけ警戒してもほぐされて、そしたらまた変なことを言ったりしたりする。

だからまた警戒して、なのに気づけばまたほぐされて、まんまと油断させられてしまう。

これもまた、宗司くんが女の子にモテる要素……いや、もはや能力なのかもしれない。

「好きだよ」

あたしの渾身の警戒をさらりと交わして宗司くんが言った。

「えっ?」

「好きだよ、チナちゃん」

「な、なに?」

「好きだよ」

「ちょ、も、もういいです」

「はは。動揺しちゃって可愛い」

ここまでくるとキャラ崩壊とかいうレベルじゃない。ついに頭のネジが外れちゃったんだろうか。

「……宗司くん、変だよ。どうしちゃったの?」

「なんか気持ちいいなと思って。こういうふうに誰かに好きって言ったの初めて。今なら見てるこっちが恥ずかしくなるくらいバカップルだったふたりの気持ち、ちょっとわかるかも」

バカップルって、あたしと悠聖のことだろうか。

そうだ。大切な人に素直に気持ちを伝えることは、とても気持ちよくてとても幸せなこと。

そんな気持ち、もうずっと忘れてしまっていたような気がする。

──チィ、ずっと笑ってて。

もしかしたら、あの日から、ずっと。

「……宗司くん」

「またね、チナちゃん」

引き留めた(?)くせに、有無を言わさぬ笑顔で一方的にシャットアウトされてしまった。

素直に車を降りて、去っていく宗司くんを見送った。

宗司くん、やっぱり頭のネジ外れちゃったんだ。

あんなに怒ってたのに、結局、背中押してくれてるじゃん。