聞いたことのない低い声を出した宗司くんは、高校の屋上で喧嘩した時よりも、そして一週間前よりもずっと、誰が見てもわかるくらい、怒ってる。
「勝手なことすんなよ。この子は俺に彼女いるなんて知らなかったし、俺が一方的に手え出しただけだよ」
あたし以上に動揺している彼女さんは、さっきのあたしみたいに、言葉が出てこないようだった。
当たり前だ。
今この場で怒る権利があるのは彼女さんだけなのに、まさか自分が怒られるなんて思っていなかったはずだ。
あたしだってそう。
宗司くんが来たことにも驚いたけど、それ以上に、宗司くんが怒っていることに驚いてる。
「帰れよ。もう二度と顔見せんな」
宗司くんを凝視したまま固まっていた彼女さんは、なにかを堪えるように俯いて、立ち上がって、その場から走り去っていった。
あたしはポカンと口を開けたまま固まることしかできない。
「巻き込んでごめんね。たぶんスマホ見られたんだと思う」
宗司くんは彼女さんが座っていた椅子に腰かけた。
そうか、勝手に見られた可能性もあったのか。
いやでも、陸の場合はそうじゃなかったわけだけど。
それにしても、けっこうみんな彼氏のスマホ見るんだな。
力が抜けたせいか頭がぼんやりしていて、そんな場違いなことばかり浮かんでくる。
「話があるって呼び出されたんだけど、まさかチナちゃんまで呼び出してると思わなかった。ほんとごめんね」
「……宗司くん、彼女いないって言ってたじゃん」
「別れたとしか言ってないよ。まあ〝前の彼女とは〟って意味だったけど」
「それはずるいよ」