陸と過ごした日々よりも、ずっとずっと、そっちのほうが大きかった。
「まあ、そういうバカなところも可愛いんだけどね」
あたし、陸のお母さんに嫌われてること、本当に気にしてたのかな。
気にしないようにできていたのは──陸との将来を真剣に考えたことがなかったからなんじゃないかな。
一緒に住もうと言われても、陸と結婚する未来なんて、一度も想像したことなかった。
まだ学生だから。これから夢だった仕事に就くから。
そんな言い訳をして、深く考えないようにしていただけなんじゃないかな。
あたし──悠聖と別れてからこの四年間、いったいなにをしていたんだろう。
ふたりの間に沈黙が落ちる。
宗司くんはなにか言いたそうに唇を薄く開いた。けれどそこから音を出すことなく閉じて、「寝よっか」とベッドに横になった。
なんかもう、たぶん、このまま泊めてもらう雰囲気ではない。
「……ごめんなさい。あたし今日はやっぱり帰──」
「は? どうやって? さっきまで唇真っ青にしてたくせに歩いて帰んの? いいから今日はもう泊まって。さすがに今から送って行けないから」
え? なんか怒ってる?
「あ、あの、……じゃあ、あたしソファーで寝るね」
「やめてそういうの。俺けっこう紳士だから。もう暖房も消すし、こんなクソ寒い日に女の子ソファーで寝かせるとかしないから。だからって俺がソファーで寝てあげるほど優しくもないけど。つーか今さら襲わねえって、こんな雰囲気で。萎えるわ普通に」
え、やっぱり怒ってるよね? なんで?
「ご、ごめんなさい……」
「どんだけ謝んの。俺マジで疲れてるからさっさと寝て。仕事行く前に駅まで送るから」
なんだかんだ優しいんだ。
「ごめ……あ、ありがとう……ございます」
宗司くんの背中に呟く。もう返事はなかった。
シングルベッドの右側を空けてくれている宗司くんに心の中で「おやすみなさい」と言って、間接照明のスイッチを切ってからそろそろと布団に潜った。
すぐに宗司くんの寝息が聞こえてきた。
清々しいほど白々しい狸寝入りだった。