──誰のこと?
あたし、誰を思い出しながら言ったんだろう。
「チナちゃんってさ。俺には未だに、悠聖くんの女に見える時あるよ」
前言撤回。やっぱり宗司くんは宗司くんで、あたしには意地悪だ。
「あたしは……もう悠聖の女なんかじゃないよ」
悠聖の女なんかじゃない。あたしたちはもうとっくの昔に別れてるんだから。
──お前こそ浮気してたんじゃねえの?
バカだよ、陸。
そんなわけないのに。
元彼と浮気なんかできるわけないじゃない。会うことすらできないんだから。連絡さえ一度もないんだから。
──あたしが一方的に忘れられないだけなんだから。
「そっか。じゃあ、手出してもいい?」
家に連れて来ておいてなにを言うんだろう。最初からそのつもりだったくせに。
小さく微笑んだ宗司くんは、ゆっくりとあたしの上に覆いかぶさった。
心臓はやけに落ち着いていた。
「……いいよ」
つぶやいて、目を閉じる。
あたし最低だな。なんか汚いな。
つい数時間前まで浮気した陸をあんなに責めていたのに、別れた直後に他の男に迎えに来てもらって、こんなことして。
でも、きっと。
だからこそ、今は宗司くんと一緒にいて楽だった。宗司くんには最初から嫌な自分をさらけ出していたから、嫌なあたしを知られていたから、今さら気取ったって仕方ない。
覚悟を決めたというのに、宗司くんはなかなかあたしに触れようとしなかった。
うっすら目を開けてみると、目を閉じる前から距離が縮まっていなかった。宗司くんの目は迷うように小さく揺れている。
「……宗司くん?」
はっと我に返ったように目を見張って、ゆっくりとあたしから離れた。
「……チナちゃんさ。やめなよこういうの。チナちゃんには似合わない」
「え?」
「自暴自棄になって他の男に抱かれるとかさ。似合わないんだよチナちゃんは」


