「……喧嘩っていうか、別れた」

「え、なんで?」

「……浮気されてたのがわかって、喧嘩になって、そのまま」

ああ、と短く笑う。笑い事じゃないのに。

「……宗司くん、ごめんね」

「なにが?」

「前も家まで送ってもらって、今日なんか迎えに来てもらっちゃって」

「まさか俺が都合のいい男になっちゃうとはね。もう家飛び出したりしないって言ってたのに」

「……ごめんなさい」

「まあたまには振り回されるのも悪くないかな」

ハンドルをきりながらのん気に笑う。あたしはあまり笑えない。

「あの……ほんとにごめんなさい」

「冗談だって。わかるでしょ。迎えに行くから連絡してねって言ったの俺だし」

そう。だから電話をかけることができた。

「今日はちょうど飲み会も抜けようと思ってた頃だったし。逆に助かったよ」

昔から何度も懲りずに幻滅しているのに、苦手意識は一向になくならないのに、なんだかんだ宗司くんのことを嫌いになれないのは、たぶんこういうところだった。

さりげない優しさを見せてくれる瞬間がある。相手が気にしなくても済むような言い方をしてくれる。

「それに、電話きた時ちょっと嬉しかったよ。頼ってくれてありがとう」

やっぱり宗司くん、変わった気がする。

そんなこと言う人だったかな。それに、なんだかすごく、雰囲気が柔らかい気がする。

走り始めて少し経った頃、図々しくも家まで送ってくれるものだと思っていたあたしは、やっと温まった体にほっとして、完全に油断していた。

「あのさ。今日も送ってあげたいんだけど」

「うん?」

「俺明日ほんとは休みだったんだけど、午後から会社行かなきゃいけなくなってさ」