たったの数分後に、一台の車が目の前に停まった。ハザードランプがチカチカと点滅する。
「チナちゃん、久しぶり」
窓を開けてにっこり微笑んだ宗司くんが、中から助手席のドアを開けた。
「……うん、久しぶり。急に電話したりしてごめんなさい」
「いいから早く乗りなよ」
小さく頷いて助手席に乗る。震えが止まらないあたしを見た宗司くんは、シートヒーターのスイッチを入れて、後部座席からひざ掛けをとってあたしの膝にかけた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
前は偶然だったとはいえ、宗司くんに二度も助けられてしまった。
暖かい車内は、変わらない香水の香りがした。前に乗った時と少し違うのは、可愛らしい小物が減っていたこと。
そういえば宗司くん彼女いたんだっけ。なにも考えてなかった……というか忘れてた。
「宗司くん、彼女……」
「別れたよ」
ほっと胸を撫でおろす。正直もうこの寒空の下を歩く気力はない。
「めっちゃびっくりしたよ。チナちゃんから電話くれるなんて初めてじゃない?」
確かにそうかもしれない。中学時代によく遊んでいた頃は連絡を取り合っていたものの、ほとんど宗司くんからだった。そのあとは、連絡を取り合うような仲じゃなかったから。
「宗司くん、仕事だったの? まさかこんな時間まで残業してたの?」
「いや違うよ。飲み会だったの」
「え⁉ 飲酒運て──」
「俺は車で行ってたから飲んでないよ」
よかった……。迎えに来てもらったのに悪いけど、さすがに飲酒運転は嫌だ。
「また喧嘩したの?」と笑いながら、華麗にハンドルを切る。少しずつ温まってきた体は、その笑顔を素直に受け入れられた。