声が震える。うまく呂律がまわらないほどに。
『今、外にいる?』
こんな時間に突然電話をかけたというのに、その声は優しいものだった。
冷えきった心と体に、深く染みる。
「……急にごめんね」
『いいよ。どうしたの?』
「……あのね」
『うん』
「……迎えに、来てくれないかな」
あたしいつからこんなに自分勝手になったんだろう。こんな時間に突然電話をして、迎えに来てほしいなんて。
『今どこ?』
なんで? とか。なにかあった? とか。
当たり前に訊かれると思っていたことはなにひとつ聞かずに、優しい声を鳴らす。
「あ、えと……ごめん」
『ごめんじゃなくて、どこ?』
「えと……バス停」
『わかった。大丈夫、すぐ行けるよ』
くす、と小さく笑ったあとに、一段と優しい声で言った。
『待っててね、チナちゃん』
来てくれることに安心したあたしは、少しだけ心が温まった気がした。
──前川宗司。
悠聖にはどうしても連絡できなかった。できるわけがなかった。電話したところで会えるわけじゃない。
でも、それでも。
声が、聞きたくて。たったそれだけで、温まるような気がして。
でも、それでも。
あたしのためを思って別れてくれた悠聖。ずっと笑ってて、と言ってくれた悠聖。
そんな人に「辛い」なんて言えない。