バス停に着く頃には二十三時を過ぎていて、最終バスはとっくに出ていた。
どうしよう。家まで歩いたら何時間かかるんだろう。
途方もなく虚空を見上げてみると、ちらほらと空から舞い降りてくる雪が頬を撫でた。
前に飛び出した時ほど風は強くない。あの日よりはずっとマシだ。とはいえ気温は氷点下だから、頭だけじゃなく体を冷やすにもじゅうぶんすぎる寒さだった。
あたしなにしてるんだろう。また同じこと繰り返してバカみたい。
誰もいないバス停のベンチに座る。こんな時間に鳴るわけのないスマホをポケットから出して、メッセージの履歴を開いた。
こんな時間に迷惑極まりないけれど、誰か迎えに来られないだろうか。
乃愛。友哉。梓。瑞穂。椎名。春斗。──悠聖。
どうしてここで止まってしまうんだろう。どうしてなにかある度に、一番に思い出してしまうんだろう。
今はもう一番頼れない人なのに。今はもう一番遠くにいる人なのに。電話をしたところで、一番迷惑なのに。
……どうして。
いつまで経っても、名前を見ただけで胸が締め付けられるんだろう。どうしていつまで経っても、あたしの中から悠聖がいなくならないんだろう。
冷えきったスマホを両手で握り締める。体が震える。かじかんでうまく動かない指先で、画面に表示されている人に電話をかけた。
『──もしもし?』
コール音はたったの二回で途切れて、代わりに声が鳴った。
「……もしもし」