「……なに言ってるの?」
「その財布、誰にもらった?」
「え?」
今日初めて、心臓がドクンと大きく鳴った。
元カノからの電話を取った時でさえ、陸のスマホを見た時でさえ静かだった心臓が、大きく。
「それ高校生ん時から持ってたよな。お前バイトもしてなかったのに、そんなブランド物の財布なんか買えんの? 浮気相手に貢がせた? それとも、元彼にでももらった?」
「そんなの──」
「お前が高校生だった時、ずっと思ってた。制服のネクタイ、男用だったろ」
どうしてみんな、そんなところに気がつくんだろう。
「……制服のネクタイって、何年前の話してるの。財布だって、高価な物だしそんな簡単に捨てられないよ。……使ってるのは謝るよ。だけど元彼になんて会ってない」
「信じられるかよ。俺がやった香水もネックレスもつけねえのに、昔の男にもらった財布は大事そうにずっと持ってるんだな」
「元カノと一緒に選んだプレゼントなんか使いたいわけないじゃんっ」
「その前からずっとつけてなかっただろ。……いいよ別に。たぶんお前の好みじゃなかったんだろうなと思ってたし。でもお前だって俺のこと責める権利ねえだろ」
ずるい。そんなのあたしの浮気を疑う理由にはならないはずだ。陸が浮気していたことと関係ないはずだ。
あたしが男子用のネクタイをつけていたから、ブランド物の財布を持ってるから、陸がくれたプレゼントを使わなかったから浮気したの? 違うでしょ?
頭の中ではそんな言葉が浮かんでいるのに、言い返したいのに、なにも言えなかった。
あたしには、陸に対してひとつだけ秘密がある。