彼は、小谷陸の女かと訊いてきた。つまりあたしと陸が付き合っていることを知っているわけであって、つまり「お前の男」は陸であって。
じゃあ「俺の女」って──。
考え始めてすぐにピンときた。
ただの直感でしかないけど──たぶん元カノだ。
この人は、陸の元カノの彼氏なんだ。
『お前、知ってた?』
「え?」
『自分の男が浮気してること』
なにを言われてるんだろう。意味がわからない。
いや、意味はわかる。だけど混乱して、動揺して、頭がついていかない。
「……知らない、ですけど」
『そっか』
陸が元カノと浮気してる。
違う女の子かもしれないのに、元カノが陸の実家に来ていたことを知ってから一年近く経っているのに、なぜか元カノだと確信があった。彼が言っていることは嘘じゃないと思えた。
女の勘ってやつだろうか。あたしにそんなものが備わっているとは思わなかったけれど。
やっとほんの少しだけ動いた思考回路で考える。
陸はまだ元カノと会ってるんだろうか。あたしに隠れて、今でも実家で会ってるんだろうか。
だけど彼は「浮気してる」と断言している。
浮気の定義は人それぞれだけれど、電話越しでも伝わってくる緊迫感に、ただ会っているだけだとはとても思えなかった。
「あの、浮気、って」
『あいつら頻繁に会ってるよ。飯食いに行ったとかいう話じゃねえぞ、やることやってる。あいつ問い詰めて吐かせたから嘘じゃねえ』
あいつって、元カノのことだろうか。元カノが陸と会ってるって、そういうことしてるって、元カノが言ったの?
『こないだ三人で会った時、お前の男にも言っといたんだけどな。自分の女に言え、ケジメつけろって』