陸とはちゃんと話し合って、一緒にご飯を食べたり実家で会ったりするのはやめてほしい、お金は振込にしてほしいと伝えた。陸も、元カノに会いたくないからと要求を呑んでくれた。

それからは車で吸殻を見かけることも、急に連絡がつかなくなることもなくなった。

それから約一年間、わりと平穏に過ごしていたと思う。

陸は今のところ店舗異動の予定はないみたいだし、あたしも無事に地元の幼稚園に就職が決まったから、しばらくは今以上に離れることもない。

と、そんなあたしたちの付き合いに終止符を打ったのは、学生生活最後の冬休み直前に鳴った一本の電話だった。

SNSからの着信の通知に首をかしげる。相手のアカウント名は表示されているものの、まったく見覚えがない。

困惑しながらも通話に切り替える。

「……もしもし?」

小谷(こたに)陸の女?』

かぶせ気味に聞こえたのは、知らない男の人の声だった。驚いたあたしは、寝転がっていたベッドから飛び起きる。

小谷陸。それは紛れもなく陸のフルネームで、あたしは紛れもなく『小谷陸の女』だ。

「そうです、けど……誰ですか?」

顔も名前も知らない相手なのに、初めて聞いた声なのに、たったひと言で怒っていることがわかるほど威圧的な口調だった。

間違いなくいい話じゃない。

「お前の男、浮気してる。俺の女と」

お前の男、浮気してる、俺の女と。

たった今聞いた台詞が頭の中でリピートされる。

理解するのに少し時間がかかった。

「え……?」

ちょ、ちょっと待って。いったん整理させて。