宗司くんは、あたしにそれを伝えようとしてくれたんだろうか。『大っ嫌いだった』から始めるなんて、ちょっとやり方が不器用な気もするけれど。
「ちょうど三年くらいか。悠聖くんが東京行って」
「うん」
悠聖と付き合ってたのは二年間だから、それ以上の月日が流れたんだ。
あの二年間、あたしはバカみたいに純粋でまっすぐだった気がする。
悠聖との未来しか見えていなかった。一点の曇りもなかった。
次の誕生日がきたら、別れた時の悠聖の歳を追い越してしまう。
……こんな言い方すると死んじゃったみたいだけど。
やっぱり十八歳なんて全然大人じゃなかった。
あの頃それに気づいていたら、今とは違う今になっていたんだろうか。
「高校かー。なんかさ、つい一年前まで高校生だったって変な感じしない?」
「わかるかも。なんかすっごい昔に感じる」
「考えてみたら、俺らけっこう付き合い長いよね。チナちゃんと知り合ったの中学ん時じゃん。子供だったよね、俺ら」
「ほんとだね」
ふと窓の外に目を向けると、見慣れた街並みが窓の外を流れていた。
宗司くんが来てくれなかったら、あたしは今頃どうしてたんだろう。自分の家に帰ってたかな。寒さに耐えきれなくて、陸の家に戻ってたかな。
宗司くんは昔からまったく信用できなかったけど、今日は初めて本音で話してくれた気がする。考えてみれば、こんな風に話したり笑い合うのも初めてかもしれない。
宗司くんは少し──少しだけ、変わった気がする。どこがって聞かれるとうまく答えられないから、言わないけれど。
ひとつだけわかるのは、宗司くんの笑顔があの頃みたいに胡散臭い笑顔じゃなくなっていること。
宗司くんはあたしの家を知らないから、駅からは道案内をして、五分も経たずに家の前に停まった。
「送ってくれてありがとう」
「久しぶりに会えて嬉しかったよ。まあ、もしまた家飛び出すことがあれば迎えに行くから。夜に女の子がひとりであんな暗いとこ歩いたらダメだよ」
「もう飛び出さないよ」
「だから、もし、ね」
「連絡してね」と念を押して笑った宗司くんは、本当にただ家まで送ってくれただけだった。一切触れてさえもこなかった。
もう会いたくない、会うこともないと思ってたけど、今日は本当に助けられた。
家の前であたしをおろして去っていく。
「またね」って、にっこりと微笑んで。