まあここは地元から車で一時間くらいの距離だし、絶対にありえないっていうほどの偶然じゃないか。
「そういえば、彼氏って地元の人かと思ってた」
「地元は地元なんだけど、仕事でこっち来てるの」
「ああ、なるほどね」
宗司くんがシートヒーターを入れてくれたから、体がじわじわと温まってきて、少しずつ震えもおさまってきた。
そういえば、宗司くんのスーツ姿も運転する姿も初めてだ。同い歳のはずなのに、なんだか急に大人に見えてしまう。
「ちょっとさ、家寄っていい?」
「え?」
「俺たまたま明日休みだし、このまま家まで送るよ。ついでに俺も実家帰るから、荷物だけ取りに行きたい」
あたしバカだ。
正直、少し焦った。家に連れて行かれるのかと思って、全力で動揺した。
「チナちゃん?」
「あ、ごめん、あ、うん、いいよ。寄ろう」
バカ決定。動揺を一切隠せてない。
そんなあたしを横目に、宗司くんは小さく笑った。
「チナちゃんがいいなら喜んで連れ込むけど。うち泊まる?」
「泊まるわけないじゃん」
「なんだ。残念」
そうだ、宗司くんのこういうところが苦手なんだ。本気か冗談かわからない。
宗司くんの家は、バス停から車で五分くらいの距離だった。
なんとなく宗司くんらしい、新築っぽい綺麗なアパートの前に車を停めて、バッグひとつ分の荷物を持ってすぐに戻ってきた。そして次は地元へと再び車を走らせる。
右手でハンドルを握り、左手でコンビニで買ったブラックコーヒーを持つ。前を向いたまま運転し続ける宗司くんは、にこにこしていなかった。
「ごめんね」
「え?」
「さっき言ってた、最後に会った日のこと」