宗司くんって、どうしてこういちいち棘のある言い方するんだろう。やっぱり本当は怒ってるんじゃないだろうか。

「……続いてるけど。悪い?」

「彼氏は? 今日けっこう寒いのに、真冬のこんな時間に彼女をひとりで帰すの? ひっどい男だね。喧嘩でもした?」

ああ、もう。本当に変わらないな。相変わらずにこにこしながら痛いところを突いてくる。

そう、宗司くんはいつもにこにこ笑っていた。だけど最後に会った日は違った。だから宗司くんも怒ってると思ってたのに。

「まあ、おかげでチナちゃんに会えたからラッキーだったけど」

「そういうこと言うのやめなよ。彼女いるくせに」

車内は可愛らしい小物がいくつか置かれている。

一度だけとはいえ、宗司くんの部屋を見た限り、こんな可愛らしい物は絶対に宗司くんの趣味じゃない。

「またバレちゃったか」

「隠す気もないくせに。……あの時の子?」

「違うよ。とっくに振られた」

「あ、そ」

なにも面白くない。面白くなんかないのに。

宗司くんがずっとにこにこしているから、あたしまでつられて笑ってしまった。

「宗司くん、仕事だったの?」

宗司くんのことはなにも知らなかった。どこで働いているのか、なんの仕事をしているのか、どこに住んでいるのか、なにも。

いや、それ以前に就職していたことすら知らなかった。理系クラスはほとんどの人が進学するのに。

「そうだよ」

「そうなんだ。会社近いの?」

「近いよ。あのバス停はちょうど帰り道」

「そうなんだ」

こんな偶然ってあるんだろうか。