暗闇の中で、北風がびゅんびゅんと暴れ回っている。たった数分歩いただけで、あっという間に体の芯まで冷えきってしまった。
北国の三月はまだまだ真冬だ。こんな時間に家を飛び出すなんてバカげている。そんなことはわかっていた。
だけど我慢できなかった。もう陸の顔を見ていたくなかった。
痙攣しているみたいに震える体を丸めて、手をクロスさせて両腕をさすった。
雪が降っていないのがせめてもの救いだった。この強風に雪が加わればホワイトアウトに見舞われることは間違いない。
ポケットに入っているスマホは至って静かだった。
陸のアパート周辺は閑散としていて、街灯がぽつぽつと立っているだけ。
家に帰るにはバスを乗り継がなきゃいけない。バス停を目指して暗い道をとぼとぼと歩き進め、着く頃には二十一時近くになっていた。
幸いまだバスはあるもののついさっき出たばかりで、次の最終バスは三十分後だった。冷えきってしまった体では少し耐えがたい時間だ。
目の前に車が停まったのは、バス停のベンチに座って十五分が経ち、根性のないあたしがそろそろ寒さに限界を感じ始めていた頃だった。
「チナちゃん?」
運転席の窓が開くと、彼は「やっぱりチナちゃんだ」と微笑んだ。
街灯が彼の姿を照らす。
「……宗司くん」
名前を呼び返すと、スーツ姿の宗司くんは、車からおりてあたしの前にしゃがんだ。
「はは、すげえ久しぶりだね。びっくりした。元気だった?」
彼氏と喧嘩をして家を飛び出して、寒くて暗い夜道をさまよって孤独を感じていたところだったけど──目の前に車が停まった時、名前を呼ばれた時、知り合いかと思って少しほっとしたけれど。