「そろそろ行くか。送ってく」
陸が伝票を持って立ち上がる。
三月になると陸の仕事は繁忙期を終え、あたしも春休みに入っているから、週に一度くらいは会える日々に戻っていた。
基本的に会える日は陸の家にお泊まりをするのだけど、陸は用事があるらしいから今日は帰ることになっていた。
「うん、ありがとう」
お会計を済ませて助手席に乗る。
あたしたちは順調に付き合っていると思う。お母さんのこと以外は大きな事件もない。
だけどひとつだけ、最近ずっと、胸に小さなしこりがあった。
「ねえ、陸。……友達乗せた?」
最近のあたしは、車に乗るとすぐに灰皿を見る癖がついていた。
蓋が開いたままの灰皿には、陸が吸っている煙草と違う銘柄の吸殻が差さっている。
「そりゃ友達くらい乗せるよ。あと仕事帰りに後輩送ったりもするし」
「……そう、だよね」
友達や後輩を乗せることはもちろんあると思う。嘘はついていないと思う。
それでも気になってしまうのは、そこにあるのが毎回同じ銘柄だと気づいたからだ。
あたしは煙草を吸わないけれど、メジャーな銘柄くらいならなんとなくわかる。友達も後輩も、みんな同じ銘柄の煙草を吸っているんだろうか。
「用事ってなに?」
「ああ、友達。前々から誘われてたことすっかり忘れてた」
「……そっか。楽しんでね」
陸が友達と遊ぶことは珍しくない。束縛はしたくないし、あたしだって友達とも遊びたいから全然いいのだけど。
今日みたいに事前に知らせてくれることもあれば、時々急に連絡が取れなくなって、あとから「友達と遊んでた」と事後報告を受けることも一度や二度じゃなかった。


