あたしの親は厳しい方ではないと思う。
「まずはやるべきことをやりなさい」がお母さんの口癖。
守れなかった時は怒られるけれど、その代わり、守りさえすればある程度は自由にさせてもらってきた。
だけど、さすがにこればっかりは、いくらやるべきことをやっていようが簡単に許可がおりるとは思えない。
「……わかった。じゃあ卒業まで待つよ。それならいいだろ? 近所にいくつか幼稚園あるし、就職先ここらへんで探してさ」
でも就職してすぐなんて、お金も気持ちも余裕ないかもしれないし、それに都合よく近所の幼稚園が募集してるかわからないし。
それは口に出さなかった。あまりマイナスな返事ばかりすると気を悪くさせてしまうと思ったからだ。
「別に軽い気持ちで言ってるわけじぇねえよ。俺は千夏との将来のこととか考えてるから」
「ありがとう。嬉しい。……でも、そんなに焦らなくてもいいんじゃないかな」
「だから、別に今すぐってわけじゃねえよ。卒業するまで待つから」
でもあたしたちの間には、大きな大きな壁があるのに。
陸は──あたしと同棲すること、お母さんに言えるの?
あたしたちはお互いあの日のことには触れず、何事もなかったように過ごしていた。
お母さんにはあれ以来一度も会っていない。だとしても嫌われたままだということはわかってる。そんな状況であたしとの同棲を許してくれるとは到底思えない。
あたしはもう陸のお母さんが毛嫌いしている〝お金を出せば入れるようなバカ高に通ってる女子高生なんか〟じゃないとはいえ、その高校の付属の短大生なのだ。
かといって卒業して社会人になったとしても、急に認めてもらえると思えないけれど。