車の中でしばらく陸と話していたから、家に着いたのは0時近くだった。
いくら励まされても気分が良くなることはなく、まだ落ち込みながら部屋へ向かった。
「春斗?」
なぜか電気がついていた部屋。あたしのベッドには、就職して家を出ていったはずの春斗が寝転がっていた。というか、眠っていた。
ちゃんと卒業前に就職が決まった春斗は「上京して芸能人になる」ことはなかった。
「春斗。ちょっと、なにしてるの」
肩を揺らすと、春斗は「うーん」とかすれた声を上げた。
警察官になった春斗は(なぜかみんなにめちゃくちゃ驚かれる)警察学校を卒業してから独身寮に住んでいて、おまけにかなりの激務だからあまり実家には帰ってこない。
何ヶ月ぶりかもわからないくらい久しぶりだった。
「春斗、起きて。あたし寝たい」
よっぽど疲れているんだろうか。揺すってもなかなか起きない。
だけどあたしも今すぐにでも寝たいから、諦めずに春斗を呼び続ける。
「……おかえり」
やっとうっすら目を開けた春斗は、あたしを見て絞り出すような声で言った。
「ただいま。なんであたしの部屋で寝てるの? 自分の部屋で寝てよ」
少しずつ覚醒してきたのか、春斗は目をこすりながら大きなあくびをして、ゆっくりと起き上がった。
「寝ぼけてるの? 疲れてる?」
「死ぬほど疲れてるけど、部屋間違えたわけじゃねーよ。せっかく帰ってきたのになんで今日に限って帰りおせーの?」