「あんな茶髪で頭悪そうな子……。それにあの制服。お金出せば入れるようなバカ高に通ってる女子高生なんかと一緒に歩いてて、あんた恥ずかしくないの?」
全然気のせいじゃなかった。
ドクン、と心臓が大きく波打つ。それは鳴り止むどころかどんどん大きくなっていって、心臓が全身に広がったみたいだった。
なぜか体が震える。
「だったらなんだよ。あいつはバカじゃねえよ」
「お母さんは志保ちゃんと別れることも、あんな子と付き合うことも認めないからね」
「お前に認めてもらう筋合いねえよ!」
ガン、となにかを蹴ったような音が鳴り響く。聞いていたことがバレないよう部屋に戻ろうとしたのに、陸が速足で出てきたから間に合わなかった。
すぐに戻ってきた陸の顔は、怒りに満ち溢れていた。震える体を両手で押さえながら、陸に腕を引かれて家を出た。
「……ごめんな、さっき。聞いてたんだよな」
車を走らせてしばらくした頃、陸が切り出した。
「……うん。あの……ごめん」
陸の目を見ることができなくて、膝の上で握っている拳に目線を落とした。
「元カノ、幼なじみなんだよ。中学の頃からずっと付き合ってたし、母親と仲良くてさ。俺が相手にしねえからって親にチクったみたいで」
「……そう、なんだ」
「うちの親……特に母親が学歴とかうるせえんだよ。俺も高卒で就職するっつった時めちゃくちゃキレられたし」
「……ん」
「元カノのこと気に入ってんのも、あいつ進学校通ってたし大学も国立だし、それだけだから。中身とかどうでもいいんだよ、母親は」
赤信号で止まると、あたしを落ち着かせるように、左手を伸ばしてそっと頭を撫でた。
「でも俺は千夏が好きだし、当たり前だけど別れる気ねえから。母親のことは気にすんな」
「……うん」
あたし、お母さんに嫌われてるんだ。一度も話したことないのに、外見だけで嫌われることがあるんだ。
あたしはきっと今まで、環境に恵まれていたのだと思った。
確かに茶髪だしスカートだって短かったし、外見はとても真面目そうには見えないと思う。だけどそのことで誰かにああいう風に言われたことがなかった。
あたしみたいな子を、外見だけで毛嫌いする人もいるんだ。高校名で認めてもらえないこともあるんだ。
それが、彼氏のお母さんだったんだ。
なんだかもう放心状態だった。涙も出なかった。