ホワイトデーの日、デートを終えてから陸の家に行った。
同じ市内とはいえ端と端だから、車でも三十分ほどかかる距離だ。何度か来てはいるものの、両親に会ったことはまだ一度もない。共働きで平日はいないらしかった。
陸の部屋は八畳ほどで、あたしの部屋よりも広い。だけど物が多いからゆったり座れるスペースがなく、布団の上が定位置になっている。
「どうぞ。バレンタインのお返し」
部屋に入るなり、陸があたしにピンク色の小さな紙袋を差し出した。
「ありがとう! 開けてもいい?」
陸は照れくさそうに微笑みながら「開けて開けて」と言った。
紙袋の中には包装された四角い小さな箱がふたつ入っている。
ひとつずつ開けてみると、小さなハートがついているネックレスと香水だった。
「え、ふたつもくれるの?」
「誕生日もあるだろ。ちょっと前倒し」
「ええー、ありがとう! 可愛い!」
「可愛いだろ。あと香水、俺この匂いが一番好き」
最近すごく流行っている、ローズ系の香りの香水だ。
あたしはバニラ系の甘い香りが好きだから、正直あまり得意な香りではないのだけど、陸が選んでくれたことはもちろんすごく嬉しい。
「ありがとう。すっごい嬉しい!」
あたしと同じくらい嬉しそうに微笑んだ陸は、あたしの手からネックレスをとると、後ろにまわってつけてくれた。
「やっぱり似合うな。思ってた通り」
胸元でシルバーのハートが揺れる。
「でも、ちょっと意外かも。陸がこんなに可愛いネックレス選ぶなんて、想像つかない」
「なんだよそれ」
「冗談だよ。あたしのために選んでくれたんだよね?」
「うん、まあ」