この恋が運命じゃなくても、きみじゃなきゃダメだった。



女子用と男子用のネクタイはサイズが違うし、あたしは特に体が小さいから、男子用のネクタイは違和感がある。

わかってるよ、そんなこと。

「今日だって、こんな寒い日になんでわざわざ屋上なんか来たの? ここ悠聖くんのお気に入りの場所だよね。一緒に来たこともあったでしょ。思い出の場所で感傷にでも浸りたくなった?」

ああもう、ムカつく。本当にムカつく。

宗司くんに気を許せないのはこういうところだ。

優しくなったと思ったらこうして意地悪ばかり言ってきて、あたしの心をこれでもかというほど掻き乱す。

「……なにが言いたいの?」

「わかんないの?」

わかってるくせに、と言いたそうに笑う宗司くんにイライラする。

どうして宗司くんはそっとしておいてくれないんだろう。

必死に前に進もうとしてるのに、どうしていつも横槍を入れてくるんだろう。

どうして──悠聖悠聖って、平然と名前を出してくるんだろう。

「宗司くんだって……彼女のこと、ほんとに好きで付き合ってるの?」

ずっとずっと引っかかっていたことがある。

じりじりと込み上げてくる苛立ちに任せて、胸の奥にしまっていたそれを口にした。

宗司くんに一度だけ紹介された彼女の名前は──「チナ」ちゃん。そして宗司くんは、その子を「チィちゃん」と呼んでいた。

それも宗司くんを避けていた理由のひとつだった。宗司くんの口から「チィちゃん」なんて聞きたくないから。

「なんで怒ってるの? 俺が自分と同じ名前の子と付き合って、あだ名がちーちゃんだから?」

「別に怒ってないっ」

「悠聖くんにそう呼ばれてたから?」

「違うってば!」