「うん。他の人とか宗司くんとか、あんなに大好きだった椎名でさえ告白されてもすぐ断ってたのに、陸くんのことは悩んでるわけでしょ?」
「……うん」
「てことはさ。チナの中で、陸くんには他の人と違うなにかがあったってことじゃないかな」
そっか。あたし、好きになれないんじゃない。〝好き〟の始まりを思い出せないんじゃない。
無意識のうちに〝悠聖よりも好きになれる人〟を探していたんだ。
乃愛の言う通り、最初から越えられるわけがないのに。
「……いいのかな」
「ん?」
「好きになれるかもしれないって、そんな始まり方でも」
「あたしはね。よくないって思う人ももちろんいると思うし、それはチナ次第だよ」
陸のこと、好きになれるだろうか。
まだなにも知らない。だけど陸と一緒にいる時は楽しかった。たくさん笑った。明るくて優しくてよく笑う陸を見て、いい人だと思った。
まだ知らないことはこれから知っていけばいいのかな。
そんな始まり方でもいいのかな。
「悠聖くんと別れて、もう二年近く経つでしょ?」
「……うん」
「チナは頑張ったよ。あたしは会えない人のこと想い続けるなんてできないし、ほんとすごいと思う。だからね、あたしは……もう前に進んでいいんじゃないかなって思うよ」
悠聖と別れて一年九ヶ月。
それって長い? 短い? 乗り越えるにはじゅうぶんな期間なの?
あたしはもしかしたら──「あんなに好きだったのにもう忘れたの?」って思われるのが怖かったのかもしれない。
逆に「いつまで引きずってるの?」って思われるのも怖かったのかもしれない。
悠聖以外の人を好きになるのも、悠聖以外の人を好きになれないのも怖かった。
前に進みたいと思ったり、忘れるのが怖かったり、全部全部、考えれば考えるほど矛盾だらけだった。
だけど、もう前に進んでいいのだとしたら。今なのかもしれない。
わからないけど、そんな気がした。


