陸のことが好きなのかどうか、正直よくわからない。

いい人だとは思うけど、まだ知り合って一ヶ月くらいしか経っていないし、数える程度しか会ったことがないし。

「悩みの原因は……悠聖くん?」

声は出さずに頷くと、乃愛は「そっか」と小さく微笑んだ。

〝好き〟という言葉で浮かぶのは、あの頃の悠聖に対する気持ち。一秒でも早く会いたくて、一秒でも長く一緒にいたくて。あのまっすぐだった気持ち。

その気持ちを、他の誰かに対してもまた抱けるんだろうか。

「あのね、チナ」

「ん?」

「別に付き合えって言ってるわけじゃなくて、これはあくまであたしの考えね」

「うん」

悠聖のことを好きなのが当たり前すぎて、〝好き〟の対象が悠聖なのが当たり前すぎて、人を好きになるきっかけを、〝好き〟の始まりを思い出せない。

「あたしね、誰と話しても誰と付き合っても、中学生の頃みたいに『好き好きー!』ってなれないんだよね」

うつ伏せに寝転がったまま顔だけ乃愛に向けると、乃愛は仰向けに寝転がったまま天井を見ていた。

「あたし冷めちゃったのかなあって思ってたんだけど、それって単に、そう思える人と出会ってないだけなのかなって思うんだ」

高校に入学したばかりの頃から……ううん、もっと前。健吾くんと別れてから、乃愛はいろんな人と付き合ったり別れたりを繰り返していた。

それに対してなにも言わなかったし、乃愛がまた本気で好きになれる人が──前に言っていた〝運命の人〟が現れるまで見守ろうと思っていた。

「そう思える人?」

「うん。チナにとっては、悠聖くんがそう思える人だったわけじゃん?」

「……うん」