さすがに正直に言えないあたしは、あ、はは、と力なく苦笑いをした。

「……ちょっと、ごめん。あたしには衝撃的すぎて。……元カノさん病んでるの?」

「病んでるよな。同棲してたんだけど、限界きたから勝手に家出た。そしたらこうやって鬼電くるわけ」

これでもだいぶ落ち着いたんだよ、と、鳴り続けているスマホを見て笑った。

一本目の煙草を消して、すぐ二本目を取り出す。陸はヘビースモーカーだ。

「千夏は? ちゃんと聞いたことなかったけど、いつから彼氏いないの?」

陸はあたしのことを千夏と呼ぶ。

今まで誰にも呼ばれたことがなかったから、間違いなく自分の名前だというのに違和感が拭えない。

悠聖に初めて「チィ」と呼ばれた時、新鮮ではあったものの、そういえば不思議と違和感がなかった。ずっと前からそう呼ばれていたような気さえした。

それほど悠聖が言う「チィ」は自然だった。

「んー……二年くらい、かな」

本当は一年と九ヶ月なんだけど。細かく言ったら引きずってるみたいだし。

「あ、そうなの? モテそうなのに」

「……別にモテないけど。ありがとう」

「俺と付き合わない?」

「うん……は?」

とっさに顔を上げると、よっぽどアホ面をしていたのか、陸は噴き出して大笑いした。

こんなに笑うっていうことは冗談だろうか。だとしたらたちが悪い。

「な、なに言ってんの。やめてよ」

「なに言ってんのって、そのまんまだろ。俺お前のこと好きだよ」

明日は晴れるらしいよ、とか当たり障りない話でもしているみたいにさらりと言った陸は、困惑のあまり石化しているあたしを見てまた笑う。

どうしてこんなに笑われなくちゃいけないのかわからない。

「だって、なんで急に? まだ知り合ったばっかりなのに……」

「期間とか関係なくね? 顔タイプだし、一緒にいると楽しいから。それでじゅうぶんだろ」

陸は「考えといて」と言って、あたしの頭をぽんぽんと撫でて立ち上がった。