うーんと唸っていると、乃愛がまた深い深いため息をついた。
ため息をつくと幸せが逃げるというのが本当なら、あたしのせいで乃愛の幸せがどんどん逃げていってしまうことになるから、これ以上ネガティブなことを言うのはやめよう。
「あたしね、今チナが考えてることなんとなくわかる」
「え?」
「強制はしないけどさ。別にいいと思うよ?」
本当にわかっているらしい乃愛が、困った顔をして歩き出した。後ろから小走りで追って、やっと駅から遠ざかっていく。
「チナがどーーーしても悠聖くんがいいって言うならあたしは見守るよ。いつか悠聖くんが帰ってくるまで見守る。でもそうじゃないでしょ?」
乃愛の言う通りだ。そうじゃない。悠聖はあたしが待つことを望んでいない。
だから別れようって言ったんだ。あたしのために。
「チナは前に進みたいんでしょ?」
そう、あたしは前に進みたい。
忘れたいわけじゃなく、悠聖との大切な思い出を持ったまま、前に進みたいんだ。
「……うん」
「さっきも言ったけど、チナは深く考えすぎ。一回遊んでみようかなーってさ、そのくらいの気持ちでいいじゃん」
そうなんだろうか。別に告白されたわけじゃないし、確かに深く考えすぎかもしれないけれど。
「……うん。そうだね」
前に進みたい。悠聖が最後にくれた愛を受け入れたい。またあんな風に誰かを好きになりたい。
そう思っているはずなのに、あたしはどこか怖がっている気がする。
前に進めるんだろうか。あんな風にまた誰かを好きになれるんだろうか。……そしたら、悠聖のことを忘れてしまうんじゃないだろうか。
悠聖以外の誰かを好きになることが──まだ少し、怖い気がする。