「……あのさ、チナ。気づいてると思うけど」
「え?」
「椎名、またチナに惹かれてるよ」
言いにくそうに、少しためらいながら上目遣いであたしを見る。
「……うん」
前までのあたしなら、そんなわけないとか告白されたわけじゃないとか、気づかないふりをして言い訳を探していたと思う。
せっかくまた仲良くなれた椎名との関係を壊すのが嫌でごまかしていた。
だけどそれは相手に対してすごく失礼なことなんじゃないだろうか。
気づいているのに気づいていないふりをして、相手の気持ちから逃げて。
それはその人の気持ちを否定することになってしまうんじゃないだろうか。それって一番傷つけるんじゃないだろうか。
「椎名、宗司くんのことすごい気にしてたよ」
「……うん。わかってる」
わかってる。カラオケで宗司くんがあたしを連れて帰った時、なにか言いたそうに見えたのは気のせいじゃない。
椎名は一瞬、たぶん、引き留めようとしていた。
「宗司くんのことは振ったんだよね?」
「……一応」
「じゃあ、椎名は?」
椎名、は。
あたしは答えを出すのがあまり得意じゃない。いつも人任せで、自分で決断したことなんてほとんどないんじゃないかと思う。
だけどそれじゃダメなんだ。ちゃんと考えて、あたしなりに答えを出さないといけない。
それがあたしが見せられる、唯一の誠意だと思った。